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ルルーシュ=ゼロ。 ユーフェミアに暴露され、部屋の空気は一変した。 「どういうことか、説明してくれるわよね?」 「お兄さま?」 ナナリーとミレイに詰め寄られたルルーシュは一瞬言葉をつまらせたが、すぐに困ったような笑みを浮かべた。 「そんなこと あるわけないだろう。ゆふぃは かんちがいを しているんだよ」 ・・・な、ななりーにうそを・・・だがここは・・・と、内心葛藤しているルルーシュとは違い、ユーフェミアはハッとなった。これも言ってはいけない事だったのにと、青白い顔で口元を塞ぎ、自分の軽率さを反省しているのだが、その仕草でユーフェミアの発言が正しく、ルルーシュが嘘を吐いているのだと誰の目にも明らかだった。 ルルーシュ=ゼロと知るスザクとC.C.は頭を抱えるしか無い。 「ルルーシュ様」 「お兄さま」 ナナリーは再びルルーシュを追い詰めた。 ・・・話せるはずがない。 テロリストである仮面の男の正体が自分なんて。 だが、これ以上ナナリーに嘘を・・・! どうすべきか悩んだのは1秒にも満たなかった。 なぜなら、頭上から深い溜息とともに・・・弁明する術を奪われたから。 「よくわかったね、ユフィ。そう、ルルーシュがゼロだ」 「おい、枢木ウザク」 「僕はスザクだよ。君、名前も分からなくなっちゃったの?痴呆?」 「痴呆はお前だこの馬鹿」 人の心を凍えさせるほど冷たい視線でC.C.が睨みつけてきても気にもせず、硬直してしまったルルーシュを抱き直す。 「ユフィは明らかに気づいてる。これ以上は無駄なあがきだよ」 確信して言っていた。だから否定など意味はないとスザクは言うが。 「お飾りに意味はなくても、ミレイとナナリーには意味があるだろうに」 「・・・あ、そうか」 ハッとしたように「ユフィに言い訳するんじゃなくてナナリーと会長か」と言うので、気づいてなかったのかこの馬鹿はと、C.C.は呆れたように睨みつけたが、本気でわかってなかったらしいスザクは、「困ったね、どうしようか?」と軽く言った。 空気を読めない主従とか恐怖しか無い。 これが皇帝とその騎士、ナイトオブワンになるのか?本気かルルーシュ?と心の中で問いかけてしまう。 「・・・どうして、ルルーシュがゼロだと思ったんだ?」 こうなったら開き直る他ない。 とりあえず、気になるから尋ねてみると、ユーフェミアはごめんなさいと言った。 「だって、ゼロはルルーシュそのものだもの。生きていたのだと、無事だったのだとわかりました。ルルーシュが無事なのだから、ナナリーもきっと無事だろうと・・・」 だから、車椅子の少女を見た時に、ナナリーだと思ったのだという。 恐ろしい娘だと、C.C.は息を吐いた。 言われてみれば、「ブリタニアをぶっ壊せ」というルルーシュとゼロはそっくりだと気づいたスザクは納得顔だ。 「お兄さまがテロリストなんて・・・どうしてそんな危ないことを」 ルルーシュがテロリスト・・・日本人から見れば反乱軍として行なってきた数々のことよりも、そんな場所でそんな活動をするなんて危なすぎるとナナリーは言った。 ナナリーが俺の心配を!と喜ぶ心と、ナナリーに心配をかけてしまったという後悔が、ルルーシュのフリーズを解いた。 「ななりー、すまない」 誤魔化しても意味は無い、イレギュラースザクが認め、共犯者も肯定を示してしまった。 何より、これ以上ナナリーに嘘はつけない。 「おれは、ぶりたにあをはかいする」 「お兄さま・・・それは、私のためですか?」 ルルーシュが動くのは、危険な事をするのは自分のために違いない。そう考えたナナリーは、そこまで兄を追い詰めてしまったのかと悲しげに言った。 「・・・ちがう、おれは、ぶりたにあが、ぶりたにあこうていが ゆるせないだけだ。おまえのせいじゃない」 ナナリーが差別を受けることなく幸せに生きる世界がほしい。 母親の死の真相を知りたい。 自分たちを捨てた皇帝が許せない。 それらの思いがあっての反逆だが、告げる訳にはいかない。 はっと気づいたC.C.はユーフェミアをじろりと見た。 丁度「何を言ってるのですかルルーシュ、ナナリーのためでしょう?」とでも言い出しそうなユーフェミアと目があい、ハッとなったユーフェミアは口を閉ざした。 よし、ある意味教育は出来たなと、お礼のピザを2枚上乗せし請求することにした。 「きょうしゃが じゃくしゃを しいたげている。おれは そんなせかいを はかいし、あらそいのない せかいを つくりたいだけだ」 ユーフェミアは、その言葉を聞きハッとなった。 以前似たような話をスザクとしたことがあった。 戦争のない平和な世界。 スザクは、どうすればいいかわからないといったが、頭のいいルルーシュなら答を出しているのではないだろうか。表情を改めたユーフェミアは、ルルーシュに尋ねた。 「戦争のない世界をどうやって作るのですか?」 真剣な声だった。 ユーフェミアの纏う空気が変わった事で、ルルーシュもまた真剣に答える。 「かんたんな はなしだ。だれかが かてばいい」 「誰かが、勝つ?」 「いまのままでは ひとびとは くるしみつづける。ならば、こうていをたおし あらたなこうていが あらそいのない へいわなせかいをつくればいい」 「それは・・・お父様を討ち、新たな皇帝が戦争を終結させるということですか?」 クーデターを起こし、皇帝シャルルを倒して新皇帝がブリタニアのトップに立つ。 トップが戦争の集結を宣言すれば、侵略戦争は終わる。 植民地開放を望めば、ナンバーズもまた開放される。 確かにその通りだが、そう簡単なことではない。 「そうだ。だから こうていは、おれがうつ」 クーデターなら、皇帝は幽閉となる可能性があるが、テロリストが討つということは、その命を奪うということだ。父親を、息子が殺すということ。家族を、殺すということ。 「わすれたか?おれはすでに あにを ころしている」 その事場に、ユーフェミア、ナナリー、ミレイはハッとなった。そうだ、総督であったクロヴィスを暗殺したのは、黒の騎士団のゼロ。そのゼロがルルーシュということは、異母兄を殺害した犯人だということなのだ。 「おれはもう、あともどりはできない。かならず、こうていの くびをとる。だから ゆふぃ。おまえが 99だいこうていとなり、せんそうのない せかいをつくるんだ」 ユーフェミアは、突然言い渡された内容に驚き声を無くしたのだが。 「お兄様、それは無謀すぎます。ユフィ姉様が皇帝になったら、国が傾きます」 ナナリーはきっぱりと断言した。 あまりにも酷い言いように、ユーフェミアは驚きナナリーを見た。 「だが、ななりー」 「お兄様、ユフィ姉様がどれだけ空気の読めない方か痛感されたはずです。スザクさんの専任騎士のお話でもわかったのではないですか?自分の望みを叶えるためなら、ユフィ姉様は、周りの迷惑など無視して突き進む方ですよ」 まさか妹にまでそう思われてたとは思わなかったユーフェミアは顔色を青ざめた。 そこまでひどかったのか自分はと、混乱しているようだ。 「な、ななりー!?」 優しさの塊であるナナリーが、ここまで辛辣な事を言うなんてと、ルルーシュは驚きの声を上げた。 「私は目も見えず、自分で歩くことも出来ません。それでも、ユフィ姉さまが人の上に立つべきではないことぐらい解ります」 そこまで言うか。 だが、よく言ったぞナナリーと、C.C.は心のなかで拍手を送った。C.C.やスザク、ミレイが何を言ってもルルーシュは「ユフィなら」と、シスコンを発揮させて擁護しかねないが、ユーフェミアなど足元に及ばないほどの愛情を注がれているナナリーが言うのだから、ユーフェミアを擁護することなどできなくなる。 ナナリー>>>>越えられない壁>>ユーフェミアの図は変わらない。 ナナリーの意見を、判断を否定することなどルルーシュには出来ない。 「だが、ゆふぃのやさしさは ほかのこうぞくには ないものだ。ちしきが、けいけんが、まわりをみるめが たりないというならば いまからまなべばいいことだ」 周りをよく見て、暴走することなく行動する。 ユーフェミアは頭は悪くはない。 勉強は苦手だが、成績もそこまで悪くはない。 「なにより ひつようなのは けいけんだ」 今までユーフェミアが好き勝手な行動をしても、従者が、貴族が付き従って尻拭いをしていたため、問題なく過ごせていた。コーネリアを筆頭に、ユーフェミアには汚いものは一切見せない事を徹底していたため、ユフィの言動の結果が良くないものだった場合は、偽りの報告をし、真実は全て隠した。 その結果が、今のユフィだ。 ナナリーとルルーシュを除けば、ユーフェミアだけが、戦争のない世界を築く可能性を持つ皇族なのだ。ブリタニアを完全に破壊するのではなく、国の形を残したまま改革を行う・・・これは人を、国を思う優しさから出た結論。 その優しさと善意は、当事者であるユーフェミアにとって重圧でしか無かった。 皇帝になるか、皇帝にならないか。 与えられた選択肢は2つしか無い。 スザクの専任騎士の話と同じで、指名された側に選択の余地はないのだ。 自分がどのような選択を強いていたのか気づき、目の前が暗くなった。 YESなら、父であるシャルルは死に、自分は皇帝とならなければならない。 戦争のない世界を作るため、この身を死ぬまで国に捧げなければならない。 NOなら、侵略戦争に同意する立場となる。 戦争のない優しい世界を願う権利は失われる。 ナンバーズに対しても、戦死者に対しても、今までのように純粋な優しさを向けることはできなくなり、彼らに対して後ろめたい思いをすることになるだろう。 「ゆふぃ。おれたちは、きみに こうていになってほしいと おもっているが、むりじいはしない」 ルルーシュは、強制ではないと告げた。 ルルーシュにはギアスがある。 だから、最悪皇位継承権に最も近いオデュッセウスかシュナイゼルに、平和な世界を願う心優しい賢帝となるようギアスを掛ける手がある。 シスコンのルルーシュは、目の前にいる妹ユーフェミアに茨の道を歩かせることをためらっているのは誰の目にも明らかだった。 ユーフェミアは困惑し、視線をスザクに向けた。 スザクはユーフェミアが皇帝となるならば、ナイトオブワンとなり彼女を支える覚悟をしていたから、真剣な表情でユーフェミアを見つめていた。 その視線を受け、ユーフェミアは決意した。 「わかりました。私が99代皇帝となります」 凛とした声音で、ユーフェミアは宣言した。 |